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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)9253号 判決 1997年5月26日

原告

小松千尋

(ほか二八名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

中道武美

小久保哲郎

被告

医療法人南労会

右代表者理事長

松浦良和

右訴訟代理人弁護士

田邉満

渡部雄策

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

被告は、原告らに対し、それぞれ、別紙未払賃金一覧表<略、以下同じ>(1)ないし(29)記載の「下記金額の合計」欄記載の金員を支払え。

二  第二事件

被告は、原告らに対し、それぞれ、別紙未払い賃金計算表の原告らの「合計」欄記載の金員及び右各金員に対する平成八年一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、原告らの所属する全国金属機械労働組合港合同南労会支部(以下「支部」という。)と被告との間で労働協約が成立(その内容は、<1>平成三年、平成四年の各賃上げ及びこれらを前提とする平成三年年末一時金ないし平成六年年末一時金の各妥結及び<2><1>の各賃上げ及び平成七年の賃上げを前提とする平成七年夏季及び年末一時金の各妥結である。なお、原告らは、この点につき、右労働協約の成立の主張の外、支部を代理人とする原告ら・被告間の個別契約あるいは原告らを受益者とする支部・被告間の第三者のためにする契約の主張や、被告が非組合員等と妥結したことに基づき、右と同内容の規範が原告らと被告との間にも設定されたとの主張もした。)した旨主張して、右<1>の賃上げを前提とする平成三年四月から平成七年三月までの賃上げ差額分及び平成三年年末一時金ないし平成六年年末一時金の各支払を求め、また、右<2>の賃上げを前提とする平成七年四月から同年一一月までの賃上げ差額分及び平成七年夏季、年末の各一時金の各支払を求め、また、予備的に、右賃金等の請求が認められない場合には、労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償の請求を求めた事案である。

一  当事者間に争いのない事実ないし証拠上容易に認定できる事実

1  当事者(争いのない事実、第一事件の<証拠略>。以下、第二事件の証拠である旨特に記載しない限り、第一事件の証拠を指すものとする。)

原告らは、いずれも、被告との間で雇用契約を締結した者であり、従前から、被告の設置する松浦診療所で稼働していた(なお、原告佐藤信子は、平成七年六月二日に、同大場恵子、同小橋栄子、同青戸範子及び同杉坂志津子は、同年八月三〇日に、それぞれ被告から懲戒解雇の意思表示を受けたが、右各原告は、その効力を争っており、原告佐藤信子については、大阪地方裁判所平成七年(ヨ)第一九一〇号地位保全金員支払仮処分命令申立事件の仮処分決定により、同大場恵子以下四名については、同裁判所平成七年(ヨ)第二三八五号及び平成七年(ヨ)第二四七〇号の各地位保全等仮処分命令申立事件において、それぞれ地位が保全されている。)。

被告は、診療所及び病院の経営等を目的として昭和五五年一月二六日に設立された医療法人であり、大阪市港区に松浦診療所を、和歌山県橋本市に紀和病院を各設置している。

2  支部と被告との交渉経緯(争いのない事実、<証拠略>、第二事件の<証拠略>、弁論の全趣旨)

(一) 被告と支部とは、平成二年度までについては、労使間交渉の結果、賃上げ及び一時金の各支払につき、妥結をみていた。

(二) 支部は、被告に対し、平成三年三月一五日付け書面(<証拠略>)において、平成三年度賃上げにつき、常勤労働者の賃金を定期昇給込みで三万三〇〇〇円引き上げることを要求し、また、同年一〇月三〇日付け書面(<証拠略>)において、同年の年末一時金につき、組合員一人当たり同年一〇月の基本給の四・五か月分の支給を要求した(その際、欠勤控除は総額の二割を対象とし、一日につき、1/五月ないし一〇月の労働日、の割合で控除することなどの提案を同時にした。)。また、支部は、被告に対し、平成四年三月六日付け書面(<証拠略>)において、平成三年度賃上げ回答分についての差別是正、同年の年末一時金の解決、平成四年度賃上げにつき、同年四月から一律三万五〇〇〇円の引き上げ、昇給表の昇給頭打ち是正、組合事務所設置等数項目にわたる要求をした。さらに、支部は、被告に対し、平成四年六月一日付け書面(<証拠略>)において、同年夏季一時金につき、組合員一人当たり(平成三、四年分解決後の)平成四年四月の基本給の四・五か月分の支給要求、平成三年度賃上げ回答分についての差別是正、同年の年末一時金等の解決、夏季休暇を賃金保障付きで七日とすることなど、数項目にわたる要求をした。

(三) これに対し、被告は、支部に対し、平成三年一一月二七日付け書面(<証拠略>)において、平成三年年末一時金は常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分プラス一律三〇〇〇円とする旨(欠勤控除は、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障。再分配はなし。)、平成四年三月一八日付け書面(<証拠略>)において、平成三年度賃上げ額はベースアップ四二〇〇円、同年の冬季一時金は三か月プラス六〇〇〇円とする旨、平成四年三月二四日付け書面(<証拠略>)において、同年の賃上げにつき、定期昇給(三四〇〇円)を除き賃上げ額五六〇〇円とする旨それぞれ回答した。また、被告は、支部に対し、平成四年六月一〇日付け書面(<証拠略>)において、同年の夏期一時金につき、常勤組合員一人当たり平成三年一一月~平成四年四月の平均基本給の二か月分を支給すること(欠勤控除は、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障。再分配はなし。)のほか、遅刻早退控除として、新たに{(平成三年一一月~平成四年四月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除する旨併せて回答した。

(四) 支部は、右回答をいずれも不服として妥結を拒否したうえ、平成四年七月七日、賃金差別等を理由に大阪府地方労働委員会に対し、不当労働行為救済申立てをした。その後、右の件について、労使間で正式の団体交渉がもたれないまま推移した。

(五) 支部は、被告に対し、平成四年一一月四日付け書面(<証拠略>)において、平成三年度賃上げ回答分以降の差別是正及び労使間紛争の解決、平成四年度年末一時金につき、組合員一人当たり(平成三、四年分解決後の)同年一〇月の基本給の四・五か月分の支給の要求(欠勤控除は総額の二割を対象とし、一日につき、1/五月ないし一〇月の労働日、の割合で控除するが、組合活動、労災、病休、産休の場合は控除対象としないことや、控除分の再配分も要求した。)等数項目にわたる要求をした。

(六) これに対し、被告は、支部に対し、平成四年一一月一九日付け書面(<証拠略>)において、平成四年年末一時金は常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分とする(欠勤控除は、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障。再分配はなし。遅刻早退控除として、{(同年五月~一〇月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除する。再分配はなし。)旨回答した。

(七) 支部は、被告に対し、平成五年六月一日付け「要求書並びに団体交渉申し入れ書」と題する書面(<証拠略>)において、平成五年度夏季一時金につき、組合員一人当たり同年四月分の基本給四・五か月の支給を要求(配分は給比一〇〇%、欠勤控除は、総額の二割を対象とし、一日につき、1/平成四年一一月ないし平成五年四月の労働日、の割合で控除するが、組合活動、労災、病休、産休の場合は控除対象としないこと、右控除分は、再配分すること。)等数項目にわたる要求をした。

(八) これに対し、被告は、支部に対し、平成五年六月一七日付け書面(<証拠略>)において、同年夏季一時金につき、組合員一人当たり平成四年一一月~平成五年四月の平均基本給の二か月分とする(配分は給比一〇〇%、欠勤控除は、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障。再分配はなし。遅刻早退控除として、{(平成四年一一月~平成五年四月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除する。ワッペンを着けて就労した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとする。ただし、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一か月を上限とする。)旨回答した。

(九) 支部は、平成五年一一月四日付け「要求書並びに団体交渉申入書」と題する書面(<証拠略>)において、同年年末一時金につき、組合員一人当たり同年一〇月の基本給四・五か月分の支給を要求(配分は給比一〇〇%、欠勤控除は、総額の二割を対象とし、一日につき、1/五月ないし一〇月の労働日、の割合で控除するが、組合活動、労災、病休、産休の場合は控除対象としないこと、右控除分は、再配分すること。)等数項目にわたる要求をした。

(一〇) これに対し、被告は、支部に対し、平成五年一一月一二日付け書面(<証拠略>)において、同年年末一時金につき、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分とする(配分は給比一〇〇%、欠勤控除は、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障。再分配はなし。遅刻早退控除として、{(同年五月~同年一〇月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除する。ワッペンを着けて労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとする。ただし、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一・五か月を上限とする。)旨回答したほか、松浦診療所と紀和病院との賃金体系の一本化に向けての新賃金体系の大枠につき被告案(基本給額に差異はない。平成六年四月一日付けで新体系に移行する。現行給与-本人給与=職能給とする。基本給以外の基準内手当については、現行手当-新手当-新基本給の差額=調整手当とし、右調整手当は、今後昇格給で昇格給がついた時の昇格給の半額を上限として減額する。調整手当の支給が該当しなくなったときは減額する。)を提示した。

(一一) 支部は、平成六年六月一日付け「要求書並びに団体交渉申入書」と題する書面(<証拠略>)において、同年夏季一時金につき、組合員一人当たり同年四月分の基本給四・五か月の支給の要求(配分は給比一〇〇%、欠勤控除は、総額の二割を対象とし、一日につき、1/平成五年一一月ないし平成六年四月の労働日、の割合で控除するが、組合活動、労災、病休、産休の場合は控除対象としないこと、右控除分は、再配分すること。)等数項目にわたる要求をした。

(一二) これに対し、被告は、平成六年六月一〇日付け書面(<証拠略>)において、同年夏季一時金につき、常勤組合員一人当たり平成五年一一月~平成六年四月の平均基本給の二か月分とする(配分は給比一〇〇%、欠勤控除は、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障。再分配なし。遅刻早退控除として、{(平成五年一一月~平成六年四月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除する。ワッペンを着けて労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとする。ただし、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一か月を上限とする。)旨回答した。

(一三) 支部は、被告に対し、平成六年一一月一日付け「要求書並びに団体交渉申入書」と題する書面(<証拠略>)において、同年年末一時金につき、組合員一人当たり同年一〇月分の基本給四・五か月の支給を要求(配分は給比一〇〇%、欠勤控除は、総額の二割を対象とし、一日につき、1/五月ないし一〇月の労働日、の割合で控除するが、組合活動、労災、病休、産休の場合は控除対象としないこと、右控除分は、再配分すること。)等数項目にわたる要求をした。

(一四) これに対し、被告は、支部に対し、平成六年一一月一一日付け書面(<証拠略>)において、同年年末一時金につき、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分とする(配分は給比一〇〇%、欠勤控除は、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障。再分配はなし。遅刻早退控除として、{(同年五月~一〇月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除する。ワッペンを着けて労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとする。ただし、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一・五か月を上限とする。)旨回答した。

(一五) 支部は、被告に対し、平成七年四月二一日付けの「通知並びに請求書」と題する書面(<証拠略>)にて、以下の条件で妥結する旨の通知をした。

(1) 平成三年賃上げ 定期昇給込み九〇〇〇円

(2) 同年年末一時金 三か月プラス六〇〇〇円

(3) 平成四年賃上げ 定期昇給別六六〇〇円

(4) 同年夏季一時金 二か月プラス三〇〇〇円

(5) 同年年末一時金 三か月プラス五〇〇〇円

(6) 平成五年夏季一時金 二か月

(7) 同年年末一時金 三か月

(8) 平成六年夏季一時金 二か月

(9) 同年年末一時金 三か月

(一六) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九一年度賃上げに関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成三年四月からの賃上げ額につき、前記(三)記載の回答記載に従い、ベースアップ四二〇〇円(定期昇給を除く。)とすること、紀和病院労働組合との間で定期昇給込み九〇〇〇円で妥結している交渉経過を踏まえ、同病院と松浦診療所間で差別が生じないように公平に実施すること、平成三年四月から平成六年三月までの賃上げ差額分(平成三年冬季一時金を含む。)を支払うことなどであった。)。

(一七) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九一年年末一時金に関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成三年度年末一時金につき、前記(三)記載の回答内容に従い、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分プラス一律六〇〇〇円とすること、欠勤控除は、ほぼ、従前の被告主張内容に従い、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再分配はなしとすることなど。)。

(一八) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九二年度賃上げに関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成四年四月からの賃上げ額につき、前記(三)記載の回答後、口頭で上積みを行った回答内容に従い、六六〇〇円(定期昇給を除く。)とすること、紀和病院労働組合と松浦診療所間で差別が生じないように公平に実施することなど。)。

(一九) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九二年夏季一時金に関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成四年度夏季一時金につき、前記(三)記載の回答内容に従い、常勤組合員一人当たり平成三年一一月~平成四年四月の平均基本給の二か月分プラス一律三〇〇〇円とすること、控除については、遅刻早退控除の条項は違法の疑いがあるので適用しないものとし、欠勤控除は、ほぼ、従前の被告主張内容に従い、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再分配はなしとすることなど。)。

(二〇) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九二年年末一時金に関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成四年度冬季一時金につき、前記(六)記載の回答後、口頭で上積みを行った回答内容に従い、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分プラス一律五〇〇〇円とすること、控除については、遅刻早退控除の条項は違法の疑いがあるので適用しないものとし、欠勤控除は、ほぼ、従前の被告主張内容に従い、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再分配はなしとすることなど。)。

(二一) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九三年夏季一時金に関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成五年度夏季一時金につき、前記(八)記載の回答内容に従い、常勤組合員一人当たり平成四年一一月~平成五年四月の平均基本給の二か月分とすること、控除については、遅刻早退控除及びワッペン着用を適法な労務提供と取り扱わない旨の各条項は違法の疑いがあるので適用しないものとし、欠勤控除は、ほぼ、従前の被告主張内容に従い、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再分配はなしとすることなど。)。

(二二) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九三年年末一時金に関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成五年度冬季一時金につき、前記(一〇)記載の回答内容に従い、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分とすること、控除については、遅刻早退控除及びワッペン着用を適法な労務提供と取り扱わない旨の各条項は違法の疑いがあるので適用しないものとし、欠勤控除は、ほぼ、従前の被告主張内容に従い、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再分配はなしとすることなど。)。

(二三) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九四年夏季一時金に関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成六年度夏季一時金につき、前記(一二)記載の回答内容に従い、常勤組合員一人当たり平成五年一一月~平成六年四月の平均基本給の二か月分とすること、控除については、遅刻早退控除及びワッペン着用を適法な労務提供と取り扱わない旨の各条項は違法の疑いがあるので適用しないものとし、欠勤控除は、ほぼ、従前の被告主張内容に従い、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とすることなど。)。

(二四) 支部は、被告に対し、平成七年四月二二日付け「一九九四年年末一時金に関する協定書」と題する書面(<証拠略>)を支部側で記名捺印したうえ、同年五月二日に被告側に提示した(その内容は、平成六年度冬季一時金につき、前記(一四)記載の回答内容に従い、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分とすること、控除については、遅刻早退控除及びワッペン着用を適法な労務提供と取り扱わない旨の各条項は違法の疑いがあるので適用しないものとし、欠勤控除は、ほぼ、従前の被告主張内容に従い、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再分配はなしとすることなど。)。

(二五) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(一六)の書面に対応する被告側の回答として「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成三年度賃上げにつき、定期昇給を除き一人当たり一律四二〇〇円とすること、基本給の確認、右平成三年度賃上げに関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(二六) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(一七)の書面に対応する被告側の回答として、「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成三年年末一時金につき、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月プラス一律三〇〇〇円とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、右平成三年年末一時金に関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(二七) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(一八)の書面に対応する被告側の回答として、「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成四年度賃上げにつき、定期昇給を除き一人当たり一律六六〇〇円とすること(看護職改定分八一〇円を含む。定期昇給時期は、年一回とし、一〇月定期昇給の人は本年に限り定期昇給の半額を定期昇給額とする。)、基本給の確認、右平成四年度賃上げに関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(二八) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(一九)の書面に対応する被告側の回答として、「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成四年夏季一時金につき、常勤組合員一人当たり平成三年一一月~平成四年四月の平均基本給の二か月プラス一律三〇〇〇円とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、遅刻早退控除として{(平成三年一一月~平成四年四月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除すること、右平成四年夏季一時金に関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(二九) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(二〇)の書面に対応する被告側の回答として、「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成四年年末一時金につき、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月プラス一律五〇〇〇円とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、遅刻早退控除として、{(同年五月~一〇月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除すること、右平成四年年末一時金に関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(三〇) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(二一)の書面に対応する被告側の回答として、「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成五年夏季一時金につき、常勤組合員一人当たり平成四年一一月~平成五年四月の平均基本給の二か月分とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、遅刻早退控除として、{(平成四年一一月~平成五年四月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除すること、ワッペンを着用して労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとするが、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一か月を上限とすること、右平成四年夏季一時金に関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(三一) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(二二)の書面に対応する被告側の回答として、「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成五年年末一時金につき、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、遅刻早退控除として、{(同年五月~一〇月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除すること、ワッペンを着用して労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとするが、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一・五か月を上限とすること、右平成五年年末一時金に関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(三二) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(二三)の書面に対応する被告側の回答として、「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成六年夏季一時金につき、常勤組合員一人当たり平成五年一一月~平成六年四月の平均基本給の二か月分とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、遅刻早退控除として、{(平成五年一一月~平成六年四月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除すること、ワッペンを着用して労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとするが、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一か月を上限とすること、右平成六年夏季一時金に関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(三三) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、前記(二四)の書面に対応する被告側の回答として、「協定書」と題する書面(<証拠略>、被告の捺印なし。)を提示した(その内容は、平成六年年末一時金につき、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、遅刻早退控除として、{(同年五月~一〇月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除すること、ワッペンを着用して労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとするが、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一・五か月を上限とすること、右平成五年年末一時金に関する大阪府地方労働委員会への救済申立てを一切取り下げること、右取下げ確認後、二〇日以内に妥結金額を支払うことなど。)。

(三四) 被告は、支部に対し、平成七年五月二日、「覚書」と題する書面(<証拠略>)を提示した(その内容は、賃上げについては、妥結時期より実施すること、被告が消滅時効の主張をしたことの確認、具体的賃金債権発生は双方協定締結後に生ずるものとすること、賃金債権の対象者は支給段階で被告に在職するものとすること。)。

(三五) 被告は、平成七年度賃上げについての支部側の要求に対し、平成七年三月一六日付け書面(第二事件の<証拠略>)において、定期昇給(四三四〇円)を除き、賃上げを一〇〇〇円とする旨回答したが、さらに、同年五月二日、支部に対し、「協定書」と題する書面(第二事件の<証拠略>、被告の捺印なし。)において、定期昇給を除き、賃上げを一八〇〇円とする旨回答した。

(三六) 支部が、被告に対し、差し出した、平成七年五月六日付け「質問書」と題する書面(<証拠略>)には、前記五月二日に「被告理事会と支部とが協定書案の交換を行った」旨の記載があり、また、右書面中には、協約内容について、今後、団体交渉等により支部・被告間で、特に減額制裁条項につき、交渉の機会を持つことを予定している旨の記載があり、右団体交渉が協約締結日の引き延ばしになることを危惧する旨の記載がある。

(三七) 支部は、被告との間で、平成五年五月一九日、平成五年度賃上げにつき、組合員一人当たり一律三五〇〇円(定期昇給は別)とすることなどを内容とする労働協約(<証拠略>)を締結した。また、支部は、被告との間で、平成六年七月六日、平成六年度賃上げにつき、組合員一人当たり一律一七〇〇円(定期昇給は別)とすることなどを内容とする労働協約(<証拠略>)を締結した。

(三八) 被告は、支部に対し、平成七年六月九日付け書面(第二事件の<証拠略>)において、平成七年夏季一時金につき、常勤組合員一人当たり平成六年一一月~平成七年四月の平均基本給の二か月分とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、遅刻早退控除として、{(平成六年一一月~平成七年四月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除すること、ワッペンを着用して労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとするが、控除額が回答額の五〇%を超える場合は一か月を上限とすることなどを回答した。

(三九) 支部は、被告に対し、平成七年九月二七日付け「通知並びに請求書」と題する書面(第二事件の<証拠略>)に記名捺印のうえ、(三五)及び(三八)の被告回答に従い、平成七年度賃上げにつき、定期昇給を除き一八〇〇円で、同年夏季一時金につき、平均基本給の二か月分で応ずる旨通知し、右各金員を同年一〇月九日までに支払うよう請求した。

(四〇) 被告は、支部に対し、平成七年一一月八日付け書面(第二事件の<証拠略>)において、平成七年年末一時金につき、常勤組合員一人当たり同年五月~一〇月の平均基本給の三か月分とすること、欠勤控除については、労災休業・組合活動(組合活動は経営者側が認めた時間)は一〇〇%保障、病休・産休は七五%保障、育休・その他の欠勤は〇%保障とし、再配分はしないこと、遅刻早退控除として、{(同年五月~一〇月までの遅刻早退回数合計)-一二}×一〇〇〇円を控除すること、ワッペンを着用して労働した者は、労働契約上、本来の労務提供でなく、欠勤扱いとすることなどを回答した。

(四一) 支部は、被告に対し、平成七年一二月二五日付け「通知並びに請求書」と題する書面(第二事件の<証拠略>)に記名捺印のうえ、被告の右(四〇)の回答に従い、平成七年年末一時金につき、平均基本給の三か月分で応ずる旨通知し、右各金員を平成八年一月五日までに支払うよう請求した。

二  争点

1  支部・被告間の交渉は、妥結したか。

2  書面なしの労働協約の効力

3  支部を代理人とする契約ないし第三者(原告ら)のためにする契約の各成否

4  被告と別組合等との間の協約(合意)内容が原告らの労働契約の内容になるか。

5  労働契約上の債務不履行の成否

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(一) 原告ら

平成七年四月二一日付け書面(<証拠略>、前記一2(一五))ないし平成七年四月二二日付け書面(<証拠略>、前記一2(一六)ないし(二四)、(三九)、(四一))において、従前の被告側回答内容(申込み)に従い、妥結の意思表示(承諾)をしたことにより、右内容で労使間において妥結をみたものである。

(二) 被告

原告ら主張の右各書面は、妥結という文言を使用してはいるが、その実質は新たな提案に過ぎないのであるから、本件においては、労使間の合意は成立していない。

2  争点2について

(一) 原告ら

本件においては、労使が署名又は記名捺印した労使協定書は作成されていない。しかし、支部被告間の前記合意は、以下のとおり、往復文書ないし書面なしの協定成立という慣行に基づき、完全な労働協約としての効力を生じている。

(1) 往復文書による労働協約

前記一2(三)、(二五)と、(一六)(<証拠略>(平成三年賃上げ))、同(三)、(二六)と、(一七)(<証拠略>(平成三年年末一時金))、同(三)、(二七)と、(一八)(<証拠略>(平成四年賃上げ))、同(三)、(二八)と、(一九)(<証拠略>(平成四年夏期一時金))、同(六)、(二九)と、(二〇)(<証拠略>(平成四年年末一時金))、同(八)、(三〇)と、(二一)(<証拠略>(平成五年夏季一時金))、同(一〇)、(三一)と、(二二)(<証拠略>(平成五年年末一時金))、同(一二)、(三二)と、(二三)(<証拠略>(平成六年夏季一時金))、同(一四)、(三三)と、(二四)(<証拠略>(平成六年年末一時金))、同(三五)、(三八)と、(三九)(第二事件の<証拠略>、第二事件の<証拠略>(平成七年賃上げ及び夏季一時金))、<証拠略>(平成七年夏季一時金))、同(四〇)と、(四一)(<証拠略>(平成七年年末一時金))のとおり、支部被告間に往復文書による労働協約が成立した。

労組法一四条が書面を要求するのは、労使間の後日の紛争を防止すべく当事者間の最終意思の明確化を図ることにあるが、本件のように被告が具体的数字を示した回答を書面で行い、支部が具体的数字を示して書面で妥結する旨表示している以上、右要請は満たされており、完全な労働協約としての効力を生じていると解すべきである。

(2) 書面なしの慣行

支部、被告間には、協約なしに、労使間の合意が協定として実施・支払われる慣行があった(昭和六〇年~同六二年、平成元年及び同二年各賃上げ、昭和六〇年~同六一年夏季及び冬季の各一時金、同六二年夏季一時金、平成三年夏季一時金については、協約なしに妥結案が労使間で協定として実施・支払われている。)。したがって、本件では、書面なくして労働協約が有効に成立したものである。

(二) 被告

本件においては、労組法一四条の書面性の要件が欠けるのであるから、原告らの主張は、失当である。

(1) 協約締結の過程で、労使間で、申し入れやこれに対する回答、回答受諾の合意があっても、それは将来協約を成立させることのみを目指すものであり、一方的に書面により妥結の意思表示をしても、協約としての効力が生ずることはありえない。

とりわけ、本件では、原告らは、従前の被告の回答内容の一部のみを取り上げ、その部分についてのみ妥結した旨主張するが、右は、むしろ新たな申込みの意思表示と評価されるべきである。また、そもそも、右のような評価の相違によって生ずる曖昧さを避けるのが労組法一四条の書面性の趣旨だとすれば、本件で往復文書による協約締結を認めることは到底できない。

(2) 書面なしの慣行があったとの主張は否認する。

3  争点3について

(一) 原告ら

前記支部被告間の合意が労働協約としての効力を有しないとしても、原告らを本人・支部を代理人とする私法上の契約(代理権授与の時期は、支部臨時大会が開催され、本件妥結内容が右大会で承認された平成七年四月二一日である。)、あるいは、第三者である原告らを受益者とする第三者のためにする契約として、その効果が原告らと被告との間に生じているから、被告はこれに拘束される。

(二) 被告

被告が終始支部との間で労働協約の締結に向けて、団体交渉を行ってきたことは自明であり、原告らの代理人としての支部と交渉したこともなければ、原告ら第三者のためにする契約をなしたものでもない。したがって、原告らの主張は、失当である。

4  争点4について

(一) 原告ら

被告は、紀和病院労働組合との関係では既に協約を締結し、また、非組合員や管理職に対して、賃上げや一時金支払を実施している。労働契約内容の画一性・集団性にかんがみると、右により、原告らに対する関係においても、当然に、就業規則上、右と同内容の規範が設定されたものというべきであるから、これにより被告は原告らに対して賃金債務を負うと解すべきである。

(二) 被告

原告らの主張は、自己の所属する支部の独自性・存在意義そのものを否定するものであるばかりか、全く採用し難い独自の見解にすぎないから、失当である。

5  争点5について

(一) 原告ら

被告の賃金規定には、毎年七月及び一二月に賞与(一時金)を支給する旨明確に記載されており(とりわけ、被告松浦診療所の賃金規定には、七月一〇日及び一二月一〇日と支給日も特定されている。)、また、毎年四月ないし一〇月に昇給を行う旨の明確な記載がある。

右は、被(ママ)告が原(ママ)告らとの間の労働契約の内容として、抽象的な一時金請求権を有していること、また、被告が右請求権の具体的範囲を確定したうえ、これによる賃上げ分や一時金を支払うべき義務を負っていることを示すものである。

しかるに、被告は、支部に対し、不当労働行為を含む違法な回答や新たな条件呈示等の手段により、右請求権を全面的に否定し、右義務を尽くさない。したがって、原告らは、被告ら(ママ)に対し、右労働契約上の債務不履行に基づき、賃上げ分及び一時金相当額の損害賠償請求権を有する。

(二) 被告

原告らの右主張は、争う。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

本件全証拠によるも、支部・被告間において、原告ら主張に係る合意が成立(妥結)したと認めるに足りる十分な証拠は存在しない。

この点、原告らは、前掲(証拠略)、第二事件の(証拠略)の各書面により、支部が従前の被告側回答と合致する内容で妥結する旨の意思表示をした以上、既に労使間で妥結をみている旨主張する。たしかに、右各書面の内容につき、原告ら主張の条項のみを取り出して形式的に観察する限り、原告らの右主張は、概ね前記認定の各書面による、従前の被告側の回答内容に合致するものであることが認められるが、両者を対比して子細にみると、支部と被告間で、大阪府地方労働委員会への救済申立ての取下げ、欠勤控除、遅刻早退控除条項、ワッペン就労の取扱い、組合補償・労災補償条項等の諸々の条件を含め、その内容全体として、意思表示が完全に合致しているとは到底いえない(原告らの主張を認めると、被告回答中、原告らに都合の悪い条項のみが協約内容から脱落する結果を生じる。したがって、それ以外の条項の部分のみによる協約の成立を肯認することは、原告らにつまみ食いを許すことになり、被告の意思に反することは明らかである。)し、前記認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、現に、被告は、(証拠略)による通知を受けて、平成七年五月二日に、支部との間で、協定書案(前掲<証拠略>)交付のため、団体交渉を持ったが、合意に達せず、結局、支部と被告の各記名捺印に係る協定書の作成にまで至らなかったことが認められる。

以上の事実関係によれば、本件においては、支部・被告間で原告ら主張の妥結をみていないことは明らかである。したがって、原告らの主張はその前提を欠き、その余につき判断するまでもなく理由がない。

したがって、本来、争点2ないし4については、判断に及ぶ必要性を見ないが、以下においては、念のため判断する。

二  争点2について

仮に、原告ら主張のとおり、支部・被告間で妥結をみていたとしても、本件においては、右内容の協定書は作成されていないのであるから、労組法一四条の書面性の要件を欠き、結局、労働協約としての効力を有しないというほかはないから、やはり原告らの主張は失当である。

もっとも、この点、原告らは、前記第二、三、2、(一)、(1)記載のとおり往復文書に基づく協定が成立した旨主張する。

たしかに、労組法一四条が労働協約につき書面化を要求する趣旨が労使間の合意を明確化し、後日の紛争を防止することに尽きるとすれば、労使間の妥結内容が当事者間で明確化されている限り、一通の書面によらなければならない必然性はない。しかし、書面性の趣旨は、右に尽きるものではなく、ほかにも、例えば、労使間の将来を律する重要な行為をなす場面であること(労働協約には規範的効力があるほか、組合員以外の第三者に対しても一般的拘束力が及ぶ場合がある。)を両当事者に自覚させ、慎重な判断の下に協約が締結されることを手続面から担保しようとした点も挙げることができるのであって、右の点にかんがみれば、原告ら主張の往復文書による協約締結は、労組法一四条の予定しないものというべきであり、結局、原告らの右主張は採用することができない。

また、原告らは、昭和六〇年の賃上げ以来、平成三年夏季一時金妥結までの間に、少なくとも一一回にわたり協定書なしに支部・被告間の合意内容どおりの賃上げ等が実施されてきたとし、右は書面なくして有効な協約が成立するとの労使慣行が支部・被告間に存在していた証左である旨主張する。

しかし、右慣行の存在自体、これを認めるに足りる証拠が存在しないばかりでなく、仮に右慣行が存在したとしても、前記書面性の趣旨の重要性にかんがみるとき、労組法一四条は、労使間の慣行によっても排除することができない強行規定と解するのが相当であるので、右と見解を異にする原告らの主張は失当であって採用することができない。

三  争点3について

原告らは、支部を代理人として、賃上げ及び一時金につき、原告ら主張の内容の契約が被告との間で成立したこと、また、支部と被告間で、右内容の、原告らを受益者とする第三者のためにする契約が成立した旨主張する。

しかしながら、前記認定事実によれば、支部は、組合としての性格上、自ら主体となって、労働協約の締結に向けて一連の行動をとっていたことが明らかであり、本件全証拠によるも、特に、支部が原告らの代理人として行動したり、原告ら各自のために被告と個別的に契約を締結したとの事実は認められないのであるから、この点も失当である。

四  争点4について

また、原告らは、被告が紀和病院労働組合との関係では既に労働協約を締結し、また、非組合員や管理職等に対し、既に賃上げ等を実施しているので、これにより、就業規則上右と同内容の賃上げ等を原告ら組合員に対しても実施すべき規範が設定され、被告ら(ママ)はこれに基づき賃金支払義務を負う旨主張する。

しかし、第三者(他組合ないし他の従業員)の協約(合意)の内容は、労組法一七条による場合のほか、就業規則に規定されない限り、原告らの契約内容として規範化されるとはいえないというべきであるので、原告らの右主張は採用することができない。

五  争点5について

原告らは、被告(松浦診療所)の賃金規定に基づき、原告らに抽象的な賃上差額請求権及び一時金請求権が発生し、労働契約上、被告が右請求権の具体化を図るべき義務を負担するに至ったところ、被告が全面的にこれを否定する態度をとり右義務を果たさなかったことにより、前記賃上げ及び一時金請求額と同額の損害が生じたので、被告は、債務不履行に基づき、右損害につき賠償義務を負う旨主張する。

しかしながら、被告が労働契約上、右抽象的権利を具体化するに当たり、いかなる内容の義務を労働契約上負担するのか原告らの主張自体判然としないのみならず、本件全証拠によるも、被告の義務違反行為の存在を認めるに足りない。仮に、原告らと被告との間の労働契約上、右抽象的権利の具体化に関して被告に何らかの義務違反があったとしても、これにより、直ちに原告ら主張の未払賃金及び一時金に相当する額が損害として具体的に発生したものとは到底いえないので、結局、原告ら主張の損害が発生したとの事実を認めることもできない。したがって、原告らの主張は採用することができない。

六  以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由がないので、これを棄却すべきである。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 谷口安史 裁判官 仙波啓孝)

(別紙) 未払い賃金計算表

<省略>

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